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「糖質制限 その7」天地米店小澤量のHave a Rice Day! ラジオフチューズ2020/10/27

投稿日:2020年10月27日 更新日:

 先回、糖質制限派の主張、人間は元々肉食だったという主張に反論しました。

 本来、人間は雑食で、手に入る食糧に合わせて、場合によっては遺伝子レベルの変化で、対応してきた、そういう実例を紹介しました。

 今日は糖質制限派がよく持ち出すイヌイットやマサイ族の話をします。

 イヌイットは、北極圏のシベリア極東部・アラスカ・カナダ北部・グリーンランドに至るまでのツンドラ地帯に住む先住民族グループの総称。アザラシなどの肉が主食で、農産物はほとんど摂取しません。摂取カロリーの40%が脂肪。一部先進国、生活習慣病や心筋梗塞などの血管系の疾患が多い人たちと同じ割合です。

 それなのに、血管がさらさらで、心筋梗塞が少なく、糖尿病のような生活習慣病とは無縁。ところが、現代食に移行すると、生活習慣病にかかってしまう。

 マサイ族は、アフリカケニアの部族で、こちらも穀類野菜の摂取がほとんどない。主食というべきかどうか、大量の牛乳、発酵乳を飲みます。さらに、牛の血と多少の肉を食べる、そして、現代病とは無縁。

 実は、現代では、野菜も食べたりするし、牛の血を飲んだりしない、という話もあります。あくまで、伝統的な一部の部族の話ということかもしれません。

 いずれにせよ、糖質制限派は、こういう例を持ち出して、

 「先住民は糖質を摂取しない伝統的な食事で健康。現代人は、糖質中心の生活に移行してから生活習慣病になった。だから、人間本来、糖質制限なのだ」

と主張をします。

 先回、こういう主張に意味がないことを説明しました。

 人類の歴史で、人は何を食べてきたのかという話です。木の実から始まり、イモ類、肉類、そして農耕での農産物に進むというのが一般的な話であり、同時に、手に入るものが場所により違い、気候の変動で変わるので、世界それぞれの場所で、食べられるものに合わせて、人間が遺伝子の機能というレベルで様々な違いを生み出してきました。

 ここから、二つの結論が出ます。

 まず、動物の肉や乳が人間本来の食事ではありません。原始人食とか先住民食などという用語自体がおかしいのです。それは、その地域の伝統食、というレベルのものです。

 二つ目は、遺伝子の機能が食べてきたもので変わってきてしまうのだから、一つの成功例をそのまま他民族にあてはめることは、簡単には言えないし、危険性もあるということです。

 この観点を持って、イヌイットのことをお話します。

 現在のイヌイットが、北極圏にうつったのは、今から1000年前くらいと言われています。意外と新しい。ただ、それまでやはり寒冷地に長期間住んでいたので、既に寒冷地に対応した特質を獲得していたのではないかと言われています。

 あらためて彼らの伝統的な食生活を紹介しますと、アザラシ・クジラなどの肉食が中心。穀類野菜はほとんど食べない。結果として、脂肪が総摂取エネルギーの40%。

 もう少し詳しく見ます。

 脂肪と言っても、魚を餌とするアザラシなどを食べていますので、牛とか豚などの肉に含まれている飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸ではなくて、魚に多い、多価不飽和脂肪酸、オメガ3が多いのです。最近健康の話題でよくとりあげられることが多いDHAとかEPAと呼ばれるものです。 

 さらに、同じ多価不飽和脂肪酸でも、現代人が摂取し過ぎと言われるオメガ6、サラダ油に多く含まれているものですね、これが少ない。

 つまり、オメガ3とオメガ6の比率がとても良いバランスです。

 こういう話から、元々あまり知られていなかったオメガ3を含む荏胡麻油が、心血管病の予防に良いということで、突然宣伝されるようになっていますね。

 ところが、オメガ3の健康効果は、他民族にはそれほど有効でないのではないか、という研究もあります。

 例えば、アメリカ・カリフォルニア大学の研究では、オメガ3による心血管病リスク低下の効果は、2万年以上前の氷河期と同じような生活を続けてきたイヌイットが、偏った食生活の悪影響に対処するための遺伝子変異によって、他民族と異なる脂質代謝のメカニズムを獲得したことが大きいとされています。

 なお、この遺伝子変異は、欧州人でも2%くらいはあるそうです。そうなると、イヌイットと同じ食生活が有効な人もまれにいるということで、完全な個人差になってしまいます。

 心血管病リスクだけではありません。脂肪の代謝、身長・体重、コレステロールの制御に関わる遺伝子機能の変化が、タンパク質とオメガ3という脂肪を多く含む食事でイヌイットが生きられるようにしたことを意味するのです。

 さらに言うと、穀類を摂取しないイヌイットですが、それなりの糖質を摂っているのです。

 まず、動物の肝臓から直接にグリコーゲンを摂取しています。

 次に、イヌイットは発酵食を作りますが、その中のタンパク質が糖質に変換されているそうです。

 イヌイットの平均摂取カロリーは1日に3,000kcalと多いのですが、そのうち糖質は15〜20%で、その多くはさきほど説明した形で摂取しています。

 日本人と比べると間違いなく少ないのですが、糖質制限派が言うような。極端に糖質を制限した物ではなく、あくまで現地で手に入る食材を長年利用してきた中での、遺伝子レベルでの対応なんです。  

 糖質制限派が持ち出す実例が、歴史的にも科学的にも問題があることがおわかりいただけたと思います。

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